
ワサビを残す人が多いのに、聞くと9割が「お願いします」と言う理由。海鮮丼から見えた心理学
海鮮丼を出していて、ずっと気になっていたことがあります。
ワサビ、けっこう残される。
海鮮丼に小さく添えて出していたワサビ。もちろん好きな人はしっかり使ってくれます。
でも、食べ終わった器を下げると、体感では2人に1人くらいはワサビをほとんど使わずに残しているように見えました。
「意外とワサビって、いらない人が多いのかな」
そう思って、ある日から注文を受けるときに聞くようにしました。
「ワサビはお付けしますか?」
すると、びっくりしました。
9割以上の人が「お願いします」と言うのです。

ワサビを残す人が多いのに、聞くと9割が「お願いします」と言う理由。海鮮丼から見えた心理学
いやいや、待ってください。
あんなに残していたじゃないですか。半分くらいの人が使わずに残していたじゃないですか。
それなのに、こちらから聞くと、ほとんどの人が「お願いします」と言う。
これは何かあるのではないか。気になって、心理学や行動経済学の考え方を調べてみました。

海鮮丼に添えられたワサビ
ワサビは「味の問題」だけではなかった
最初は単純に、ワサビが好きか嫌いかの問題だと思っていました。
ワサビが好きな人は使う。苦手な人は残す。それだけの話だと。
でも、実際に注文時に聞いてみると、そう単純ではありませんでした。
なぜなら、「最初から付いているワサビ」は残す人が多いのに、「付けますか?」と聞かれたワサビは欲しがる人が多いからです。
同じワサビです。
量も、味も、置かれる場所も大きく変わっていません。
変わったのは、たった一つ。
お客様が「自分で選んだかどうか」です。
人は「自分で選んだもの」を大事にしたくなる

ワサビを残す人が多いのに、聞くと9割が「お願いします」と言う理由。海鮮丼から見えた心理学
心理学には、自己決定感という考え方があります。
簡単に言うと、人は「自分で決めた」と感じられると、その行動に納得しやすくなり、満足感も高まりやすいという考え方です。
たとえば、誰かに「これを食べなさい」と言われるより、自分で「これにします」と選んだ料理のほうが、なんとなくおいしく感じることがあります。
同じ料理でも、自分で選んだという感覚が加わるだけで、価値が少し上がるのです。
ワサビも同じかもしれません。
最初から勝手に付いていると、「そこにあるもの」です。
でも、注文時に「ワサビは付けますか?」と聞かれて「お願いします」と答えると、それは自分が選んだワサビになります。
たかがワサビ。
でも、お客様の中では、少しだけ意味が変わっているのかもしれません。
「聞かれたら、お願いします」と言いたくなる心理
もう一つ大きいのが、聞かれたら断りにくいという心理です。
「ワサビはお付けしますか?」と聞かれたとき、選択肢は一応あります。
- お願いします
- いりません
でも、ワサビが完全に嫌いな人でなければ、こう思う人も多いはずです。
「まあ、あっても困らないし」
「無料なら付けてもらおう」
「少し使うかもしれないし」
ワサビは別料金ではありません。付けてもらっても損はない。
そうなると、人は失うより、もらっておくほうを選びやすくなります。
これは行動経済学でいう損失回避にも近い感覚です。
人は「得をしたい」よりも「損をしたくない」という気持ちが強く働くことがあります。
ワサビを断ったあとで、もし途中で欲しくなったら損をした気分になる。だったら最初から付けてもらおう。
そんな小さな判断が、一瞬で起きているのかもしれません。
最初から付いているワサビは「ありがたみ」が薄い
もう一つ、面白い考え方があります。
それがデフォルト効果です。
デフォルトとは、最初から設定されている状態のことです。スマホの初期設定や、アプリの通知設定のようなものです。
人は、最初からそうなっているものを「そういうもの」として受け取りやすいと言われています。
海鮮丼に最初からワサビが付いていると、お客様にとってそれは「選んだもの」ではありません。
ただ、そこにあるものです。
だから、ありがたみも薄い。
もちろん必要なら使う。でも、必要なければ残す。
ところが、注文時に確認されると、ワサビはただの添え物ではなくなります。
「自分の好みに合わせて付けてもらったもの」になります。
この違いは、飲食店の現場ではけっこう大きい気がします。
飲食店では「選べる」が満足度になる
飲食店の仕事をしていると、料理の味だけではなく、食べる前のやり取りも満足度に影響していると感じます。
たとえば、同じ海鮮丼でも、
- ワサビを付けるか選べる
- ご飯の量を聞いてくれる
- 醤油の種類を選べる
- 苦手なものを確認してくれる
こういう小さな選択肢があるだけで、お客様は「自分に合わせてもらった」と感じやすくなります。
もちろん、選択肢が多すぎると逆に迷わせてしまいます。
でも、ワサビのように答えやすい小さな選択肢は、負担になりにくい。
むしろ、ちょうどいい接客になります。
「ワサビはお付けしますか?」
たったこれだけの一言ですが、お客様にとっては、少しだけ自分で選べる時間になります。
ワサビを聞くことで、食品ロスも減る
お店側としては、もう一つ大きなメリットがあります。
それは、食品ロスが減ることです。
最初から全員にワサビを付けると、使わない人の分はそのまま残ります。
一つひとつは小さくても、毎日の積み重ねで考えると、決して小さくありません。
ワサビ代だけの話ではなく、仕込みの手間、器に盛る手間、下げる手間、捨てる罪悪感。
そういうものも含めて、聞く価値があります。
しかも、お客様の満足度を下げるどころか、むしろ「ちゃんと聞いてくれる店」という印象になる可能性もある。
これは、飲食店にとってかなり良い改善だと思います。
お客様は「ワサビ」が欲しいのではなく「選んだ実感」が欲しいのかもしれない
今回のことで、僕は少し考え方が変わりました。
お客様は、本当にワサビが欲しいから「お願いします」と言っているのか。
もちろん、ワサビが好きな人もいます。
でも、中には「一応付けておこう」という人もいるはずです。
それでも、聞く意味はあります。
なぜなら、そこにはお客様が自分で選ぶ余白があるからです。
飲食店では、料理を作って出すだけではなく、お客様がどう感じるかまで含めて一つの体験になります。
ワサビを付けるかどうか。
たったそれだけのことでも、人の感じ方は変わる。
飲食店って、本当に奥が深いです。
まとめ|たかがワサビ、されどワサビ

ワサビを残す人が多いのに、聞くと9割が「お願いします」と言う理由。海鮮丼から見えた心理学
海鮮丼のワサビを見ていて、最初はこう思っていました。
「ワサビって、意外と使われないんだな」
でも、注文時に聞くようにしてから、少し違う見方になりました。
人は、最初から置かれているものにはあまり意識を向けない。
でも、自分で「お願いします」と選んだものには、少しだけ価値を感じる。
ワサビを残す、残さない。
それだけの話に見えて、実は人間の心理が隠れていました。
たかがワサビ。されどワサビ。
飲食店の現場には、こういう小さな発見がたくさんあります。
そして、そういう小さな発見こそが、お店を少しずつ良くしていくヒントになるのかもしれません。